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芝浦工大大学院で『現代の建築プロジェクト・マネジメント』を教科書にした講義の第4回が開催されました

芝浦工大建築学部の志手一哉教授とCPDSの合同で企画する大学院向けの講義「建築生産マネジメント特論」が開講しました。4週連続8コマに渡り、書籍『現代の建築プロジェクト・マネジメント』をテキストに使用し、書籍執筆や委員会での議論に参加したCPDSのメンバーがリレー形式で登壇、実務に裏付けられた建築プロジェクト・マネジメントのツボを講義します。

第4回・CPDS担当分では最終回となる10月17日は「各主体者の課題認識」をテーマとした建築設計者による講義と志手教授によるまとめの講義をレポートします。

志手一哉教授・黒木正郎氏

1コマ目の講義は「各関係者へのヒアリングから」と題して、CPDS理事・MPMであり日本郵政首席建築家の黒木正郎氏が講師を務めました。黒木氏は日本設計執行役員フェローを経て現職、工学院大学・洗足学園音楽大学の客員教授を務めています。

はじめに設計業務について。プロジェクトの要求条件をかたちに変換するのが設計業務。従来それだけに携わっていた建築士が建築生産方式の多様化によって戸惑っているのが現在の状況と看破しました。建築には社会・経済・文化・技術の4側面があり、これらの調和を図るのが建築の諸制度であるという説明は腑に落ちるものでした。

講義の柱はテキスト8〜11章の内容です。発注者・受注者・設計者のそれぞれの立場からみた発注契約方式・要件整理・発注者支援者・設計変更の4つのキーワードを軸に解説して頂きました。設計以前に整理すべき要件には、制約条件と要求条件の2種類があります。要求条件は、発注者自らの課題を正しく把握し、適切な表現で過不足なく設計者に伝える技能が必要です。ここをサポートする役割も、発注者支援者=プロジェクトマネージャーに求められます。

ギリシア語の語源に遡れば、アーキテクト=建築家はただ建物の設計をする人ではなく、物事の基本構造を決める人のこと。「始原の技術者」が基の意味であることを、聴講した大学院生たちもかみしめていたことと思います。

黒木 正郎氏
志手一哉教授

2コマ目は連続講義の締めとして、志手一哉教授が登壇。前半はテキスト第6章、英米における建築プロジェクト発注方式について。欧米での建築家の出現はルネッサンス期、16世紀頃。サン・ピエトロ大聖堂を設計したミケランジェロが始原の建築家の代表格です。

英米で建築家協会が設立されたのが19世紀半ば。明治期に西欧から建築家を招き、日本はあとを追います。英国は発注者側で積算士QSやエンジニアのチームで実施設計を行い、数量書BQを作成してゼネコン入札。米国では発注者・受注者双方の要望を満足させるためにCM方式やDBなど多様な発注方式が開発されてきました。

1980年代には英米の有識者から日本の建築産業の仕組みが注目され、ステイクホルダーが協力し合いながらプロジェクトを進める「パートナリング」の概念が生み出されました。2000年代以降、パートナリングからプレコンストラクションを主としたCM業務と工事請負で契約を分ける2段階発注方式や、デザインビルド等に発展していきます。

そして後半は第12章、持続的な発展に向けて。利用価値を失った建物は放置されるか取り壊され、廃棄物となります。それが短寿命で起こる建物は地域や地球に負の影響しか与えません。最近の新興国の成長と円安の関係も無視できない要素。日本円は米ドルだけでなく、中国の元やベトナムのドンに対しても円安が進んでいる。この2,3年の間に約3割下落しているのです。言語や技術仕様、商習慣の違う日本は将来に渡り、新興国の建設技能者が学びたい・働きたい国として選ばれるのか。外国人労働者に労働力を依存しかねない建設業の政策は持続的か。いま一度、立ち止まって考えるべき、分岐点が訪れています。

最後に建設産業の変革に向けたいくつかの提言として、発注契約方式のリセット、発注者支援者の育成、発注者におけるBIMの可能性についての指摘を行い、講義を総括しました。  

今回が最後の講義となりましたが、4週8コマ、7名の講師によるリレー講義は大変密度の濃い内容だったと思います。聴講した大学院生にとって、いくつもの新たな気付きがあったのではないでしょうか。来年度もこの講義を開講できればと思います。登壇頂いた講師の皆様、ありがとうございました。

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