フォーラム・セミナー

第9回CPDSフォーラムを開催しました。

2023年11月21日

 11月21日の夜、六本木ヒルズの足元にあるシェアスペースBLINKにて第9回CPDSフォーラムを開催しました。ゲストは一級建築士・建築コンサルタント・JFMA理事兼フェロー、ファシリティデザインラボ代表の似内志朗氏。『働き手のウェルビーイングを高める企業のファシリティ戦略』と題して、大変中身の濃い講演を聴かせていただきました。以下にハイライトをレポートします。

 ファシリティマネジメント(FM)は人フォーカスの時代へ。コロナ禍のリモートワーク等を経て、働き方は組織から個人へとパワーシフトしています。ファシリティコストは人件費の10分の1。経営面からみても、優秀な人材育成・確保が如何に重要かがわかります。今は知識社会と言われますが、オフィスなどのファシリティも人の知恵を最大限引き出すための装置と言えます。

 働く場所の新しい在り方として、ハブ&スポーク型ワークプレイスを紹介。広義のABW=Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を似内さんご自身、実践されています。BCGの最近の調査レポートでも、柔軟な働き方を容認する企業ほどコロナ禍の業績の伸びが大きかったという報告がなされています。ESG時代におけるファシリティの在るべき姿をシンプルに集約すれば、環境負荷最小化とウェルビーイング最大化の組み合わせと言えます。先進事例として、JFMAが2019年に視察したアムステルダムの「The EDGE」が紹介されました。OVG(デベ)+PLP(設計)+Deloitte(テナント)のコラボレーションによる世界一のスマートオフィスです。ここでは、先の環境負荷最小化とウェルビーイング最大化が完全に実現されていると言って過言ではありません。しかも竣工は2018年、個別の技術はそれほど高度でもないのですが、実現すべき目的が明確です。

 環境と社会=E&S課題の解決は、F =財務価値に結びつけることが重要という指摘は正鵠を射ています。どれだけ環境や社会にとって良いことでも、企業が利益を出し存続していかなければ、良いことも持続できません。非財務価値を財務価値に結び付け、昇華させるのが今日的なファシリティマネジメントの役割と言えるのではないでしょうか。
 「健康経営」は経済産業省がバックアップすることで徐々に認知度が上がってきました。2017年より東証上場企業の中から「健康経営銘柄」を毎年選定、2020年までに500社が指定を受けました。幸福度の高い社員の生産性は1.3倍、創造性は3倍といった研究結果も最近は知られるようになってきました。健康経営は、「経営資源としての社員の健康」への投資による経営貢献と言えます。
 建物のグリーン認証は、日米欧でそれぞれの制度が確立しています。環境建築評価指標としては日本のCASBEEと米国のLEEDが代表的。健康建築評価指標である米国のWELL認証は、2014年にスタートした新しい指標ですが、ウェルビーイング戦略の評価軸をほぼ網羅しているとのこと。コロナ禍で健康な建築への関心が一層高まりました。

 建物だけでなく、都市空間のウェルビーイングも重要です。英国の首都ロンドンは世界初の「国立公園都市」をめざし「2050年までに市内の50%緑化」を目標に掲げる憲章に市長が署名。都市間競争においても、快適性・環境の質が重要視される時代です。我が国の首都、東京ではどのような施策が取られているのか、調べてみようと思いました。
 建物をグリーンビルにすることは、経済的にもペイするのでしょうか。CBREがまとめたアンケート調査によれば、直近23年3月時点で賃料プレミアムは+5.4〜6.4%、稼働率プレミアム が+0.9〜3.3%と確かに数字で実証されています。多少のコスト高であっても、環境や健康に敏感な企業がグリーンビルを選択していると言えるようです。

 まとめとして、①人の知が富を生む時代、②ESGから見るウェルビーイング、③健康経営から見るウェルビーイング、そして④グリーン認証は役立つかという観点で4つのポイントをまとめられました。ウェルビーイングの非財務・財務効果は明白だが、認知拡大が今後の課題という指摘がなされました。
 質疑応答では会場から活発な質問や意見が。参加者の多くの方は建築環境、ワークプレイスの専門家で似内さんとも旧知の仲。和気あいあいとして雰囲気で、1時間半ではとても時間が足りないフォーラムでした。番外編の資料まで用意してくださった似内さん、またお話を聞く機会を設けたいと思います。ご参加の皆様、ありがとうございました。

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