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連載 第1回『現代の建築プロジェクト・マネジメント』を概観する

CPDSの編集で2022年7月に発刊された『現代の建築プロジェクト・マネジメント-複雑化する課題を読み解く-』は、日本の建築産業の成り立ちや仕組み、またそれに起因した構造的な課題や将来へのヒントを判りやすく提示した書籍として、多くの反響を頂いています。今回から数回に亘って、本書の要点や、背景にある著者の意図などを紹介させて頂きます。(小菅 健)

 ● 発刊の経緯と目指したこと

 本書の発刊は、2016年にCPDS普及啓発委員会の前身である調査委員会作業部会で行った発注契約方式に関するワークショップ、また2018年から2019年にかけて普及啓発委員会で行った建築プロジェクトの運営方法に関するヒアリング調査がきっかけとなっています。いずれも、発注者・設計者・ゼネコン・発注者支援者といった立場の異なる主体者の生の声を拾い上げることで、共通の課題や意識の相違が明らかになってきました。同時にそれらの背景には、日本の建築産業の固定化したビジネスモデルや、建築生産プロセスに関する情報の非対称性がある可能性も見えてきました。

 もっとも、発注者と建築を専業にする設計者やゼネコンとでは、建築を取り巻く知識や情報に差異があるのは当たり前のことです。一方で、完成された商品を購入する場合とは異なり、建築の場合は設計契約や工事契約の締結後にも発注者が主体的にプロジェクトに関わっていく必要があり、発注者も建築生産プロセスについて一定の知識が求められてしまいます。逆に、市況やステークホルダーが大きく変化する現代においてもビジネスモデルや生産プロセスに大きな変化がない建築産業に身を置く主体者は、その特異性を客観的・俯瞰的に認識しておく必要がありそうです。

 このような背景から、本書は、現代の日本の建築産業と建築生産プロセスに関する基礎的な知識を提供することを目的にまとめられています。建築技術の解説書は無数にありますが、建築産業や生産プロセスの全体像を発注者も含めたあらゆる立場の主体者に提供することを目的にした解説書は、意外とありません。本書の作成にあたっては、建築経験の浅い発注者や建築初学者でも理解しやすい解説書であること、一方で建築に携わる実務者でも新たな気付きが得られること、そのためには実務と学術が融合した実学の書であることを目指しました。

 次回からは、本書の構成や各章の要点を紹介していきます。(つづく)

* 書籍の紹介ページはこちら(CPDSウェブサイト)
 https://cpds-c.jp/archives/news/news43

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