レポート

芝浦工大大学院での講義『建築生産マネジメント特論』4日目を開催しました

今年で4年目となる芝浦工業大学大学院での講義『建築生産マネジメント特論』4日目を開催しました。この講義は、2022年7月に出版した書籍『現代の建築プロジェクト・マネジメント』をテキストに、執筆を担当した建設業界各分野の実務者がリレー形式で講義を行うものです。CPDS普及啓発委員長であり本書の主著者である志手一哉芝浦工大建築学部教授の授業内で開催しています。

第7講は「各関係者へのヒアリングから」と題して日本郵政建築株式会社・首席建築家の黒木正郎氏にお話を聞かせて頂きました。黒木さんは工学院大学・洗足学園音楽大学で客員教授として教鞭をとられ、CPDSの理事でありMPMでもあります。テキストの解説に加え、アカデミックな知見を提供して頂きました。

黒木正郎氏

前段では発注方式の歴史的経緯を紹介。設計施工は施工者が一貫して行うのが当たり前の時期・時代があったとか。ルネサンス期の建築家アルベルティが「設計しかやらない、工事には関与しない」と宣言。それ以前の建築家、ブルネルスキらは工事にも携わっていたそうです。

「発注者へのヒアリング調査」では、2018〜19年ヒアリング調査時と今は大違いと指摘。供給力過剰から、供給力不足へと状況が変わりました。今後、改修工事が増えると要件整理・変更はより複雑に難易度が高くなると考えられます。発注者支援は今後ますます需要が高まるでしょう。特にマンションなどの改修工事では不可欠になります。

建築の4つの側面として社会・経済・技術・文化を挙げ、建築家の果たすべき役割として、1.新しい概念に形を与えること、2.場所を読む、場所の持つ力を引き出すこと、3.人のふるまいを導くことの3点を指摘。英語のArchitecture=設計思想であり、Architect=建築家とは「物の基本構造を生み出す技術(思想)を持つ人」のことだそうです。

アーキテクチュアの語源はギリシア語でアルキテクトゥーラ、「初源的な技術」という意味です。AM、PM、CM、FMなど多様なマネジメントの職能がある中で、建築家=アーキテクトが果たすべき役割について、未来の建築家やマネージャーの卵たちにとって学ぶことの多い講義だったと思います。

志手一哉教授

CPDSが関わる最後の講義、第8講「持続的な発展に向けて」で今年も志手先生にトリを務めて頂きました。建築プロジェクトの関係者は同じ船に乗るパートナー。プロジェクトオーナーである発注者はお客様であるという発想を発注者自体が変えていかなければならないと志手先生。テキストの第3部では、発注者に求められるケイパビリティに光を当ていくつかの提言を行なっています。

まずは欧米における建築プロジェクトの歴史的背景や英米と日本の建築産業の成り立ちの違いについて解説。DBやIPD、CM方式は1980年代に日本の建設業・製造業を視察した欧米の企業が開発した手法を逆輸入したものと言えます。ステイクホルダーが協力しながらプロジェクトを進めるやり方が90年代に英米で「パートナリング」の概念に発展しました。

英国はQSが作成した数量書BQに対して入札を行うのに対してトラブルが生じやすく、米国はGCがコスト+フィーを志向するのに対して発注者は総価請負ランプサムを志向するコンフリクトがありました。そうした問題の解決をめざし、1980年代の日本の建設業の進め方を参考にして英米で90年代にパートナリングが発展しました。94年レイサム・レポート、98年イーガン・レポートを発端として、建設の発注契約方式は進化し続けています。

建設業の変革を迫られる2つの課題は、働き方改革(時間外労働の上限規制等)と担い手不足(中堅技術者の不足も含む)。残業規制については月45時間、年間360時間の上限を基本に考える必要があると指摘されました。建設業に携わるマンパワーが不足するなか、プロジェクトのパフォーマンスを高めるための技術革新の工夫が求められています。

現在の建設業界が直面している問題の発端は2000年頃に熾烈化した価格競争にあるとも言えます。建築の発注者には、自身の行為が及ぼす影響の範囲を想像できる学際的な知識が発注者に求められる時代になっています。職能横断型のフラットなプロジェクト運営が求められ、設計段階におけるゼネコンの関わり方のバリエーションが多様化する中、最適な手法を構築することが重要となってきていると言えます。

最後に建設産業の変革に向けた提言として、①「発注契約方式」という固定的な考え方のリセット、②協調的なプロジェクトの進め方に対応できる発注者支援者の育成、③発注者が主導するBIMの可能性を挙げました。「プロジェクトの集まりが建設業である」という締めくくりが印象的でした。

4日間に渡る『建築生産マネジメント特論』を無事に開催することができました。受講頂いた大学院生の皆さん、講義して頂いたCPDSの皆さん、ありがとうございました。

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