レポート

芝浦工大大学院での講義『建築生産マネジメント特論』が始まりました

今年で3年目となる芝浦工業大学大学院での講義『建築生産マネジメント特論』がスタートしました。この講義は、2022年7月に出版した書籍『現代の建築プロジェクト・マネジメント』をテキストに、執筆を担当した建設業界各分野の実務者がリレー形式で講義を行うものです。CPDS普及啓発委員長であり本書の主著者である志手一哉芝浦工大建築学部教授の授業内で開催しています。

志手一哉教授

例年より多い20名近い大学院生が出席したガイダンスに続き、志手先生による第1講は「日本の建築産業を理解する」。書籍第1章「日本の建築産業が抱える課題」に基づく内容です。日本の発注方式の変遷は、仏教伝来・寺社建立から始まりました。かつては塗職人「左官」に対して木工職人=大工を「右官」と呼ぶ時代がありました。中世以降、一括請負が定着します。19世紀、開国に伴い設計・施工分離が広まりました。

建設技能労働者不足を考えるポイントとして、BIM活用、プレファブ化及び工場内でのロボット活用挙げられます。オランダの視察レポートではBIMを駆使したフルオートメーション・プレキャストコンクリート工場の模様が紹介されました。建設資材の高騰・職人の高齢化と若年層の不足を補い建設業を持続可能なものとするため、CPDSとしても力を入れて議論したいテーマです。

建築の生産設計は、設計者が描く実施設計図からゼネコンが使用する施工図に落とし込む作業です。専門工事間の取合いをゼネコン内部で調整します。90年代初頭からゼネコン各社に生産設計部門が設置されました。意匠・構造・設備をまとめて俯瞰する総合図の作成も施工者の重要な役割です。

建築プロジェクトにおいて発注者が役割を果たすためは、多様な入札契約方式の理解が不可欠です。発注契約方式の多様化は、設計者の選定の仕方の多様化でもあります。発注者を支援する者=PM/CM(プロジェクトマネージャー/コンストラクションマネージャー)の役割も年々重要となってきています。

佐藤正謙弁護士

第2講は「建築プロジェクトのマネジメント 義務範囲の設定、リスク配分の観点から」。講師の佐藤正謙先生は東大法科大学院で教授も務めたベテランの弁護士です。建築を学ぶ学生には耳慣れない法律用語を分かりやすく嚙み砕いて話されました。

冒頭で、「請負人はとかく過大な責任を一方的に負わされがち?」と言われることもあるが、イメージで物語るのでなく、問題の所在と内容を正確に把握する必要があると強調されました。

次に、仕事の完成を目的とする契約である「請負」において、請負人は目的物の種類・品質・数量の契約不適合による責任(以前は瑕疵担保責任と称されていました)を負いますが、これは有償契約全般に当てはまるルールとのこと。請負契約は「不完備契約」(契約の目的・対象に大きな不確実性が介在し、起こり得る全ての事象への対応を予め定めることが難しい契約)の典型例ですが、とはいえ、実務上手をこまねいて見ている訳にはいきません。考えられる対応策はふたつ。リスクの洗出しと分担のルールづくりと、それでも解決がつかない場合の対応策(契約変更・紛争解決手続)を定めることだそうです。

外在的リスク(当事者がコントロールできない外在的要因)には、政治・経済・社会的要因・災害など様々なものがあります。昨今の例では頻発する大規模水害やパンデミックが記憶に新しいところです。外在的リスクのもう一つの例として挙げられた昨今の著しい建設費高騰とそれへの対応も正にタイムリーなトピックでした。建設コストの上昇を契約に反映させるスライド条項は公共発注では比較的採用されていますが、民間発注の工事ではなかなか採用されないか、(採用されても)それに基づく調整が実現していません。今年6月に建設業法等が改正され、条件変更に関する誠実協議義務が新たに法制化されました。慣例化した総価請負契約そのものを見直す時期に来ているように思います。

このとおり、幾つかの進展も見られるものの、我が国の建築プロジェクトにおける契約実務はまだ道半ば。その点で先行する官民連携事業(コンセッション)から学ぶところは多いと思われます。

『建築生産マネジメント特論』の第2日目は10月7日に開催されます。第3講は森トラスト山田晋治氏による「建築プロジェクトに係る費用の基礎」、第4講はアーキブック小長谷哲史氏による「建築コストのプランニング・モニタリング・マネジメント」を予定しています。受講する皆さん、乞うご期待ください。

 

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