【契約書で網羅するべき条項】
約款を含めた定型型の契約条項では、一般的に合意することに相違ないとされる常識的な条件が網羅されるのが通常です。しかし、海外からのコンサルタントなど普段ビジネス契約関係にない相手、国内のビジネスコモンセンスが共有できない相手との契約の場合、定型型の「約束事」が通用しないのは致し方ないと思われます。長い付き合いの中での信頼関係や、融通などが通用しない「一回限りの」ビジネスリレーションを構築する場合、想定できるあらゆる場面に対応できる約束を双方に合意しない限り、万が一の場面で対応が出来なくなってしまいます。
日本には不吉な事を口にしない、縁起の悪い事を考えない・言わないという風習が根強く残っています。従って、契約書締結の段階でも「万が一こんな悪い状況になったらどうしましょう?」という事項を「不吉な事を考えるのは止めよう。その時はその時に相談すればいい」と問題として先送りしてしまう傾向があります。しかし、国内外問わず価値観や社会的常識が大きく揺らいでいる現在、思い込みや淡い期待のみでビジネス関係を結んでしまうことには大きなリスクがあると言わざるをえません。また契約で設定する約束は、双方に対してフェアーで対等なものでなくてはなりません。
特に建築・建設プロジェクトにおける業務契約において争点になるのは、著作権の帰属と業務停止についての条項と思われます。著作権に関しては、基本的には設計者である建築家に帰属しながら、発注者にその使用を認めるというケースが一般的です。もし著作権の扱いについて、双方の理解に不安がある場合、様々なケースを想定して対応方法を合意しておく必要があると思います。著作権に対しての考えが異なる国では、国際設計コンペを実施して良いデザインを広く募りながら、選定したデザインを自国の設計者に安く設計させるといった行為も見られます。また、著作権に関する条項では、建築家をどのように表記するかも問題になります。国内側に設計事務所が参画している場合など、「設計者」がどちらなのか曖昧のまま業務が進み、プロジェクトを公表する段階で、海外建築家と国内設計者をそれぞれどう表記するかが問題になるケースもあるようです。マスターデザイナー、マスターアーキテクトなどの称号も多く使われるようになっていますが、これもそれぞれのコンサルタントがどういった立場でプロジェクトに参画しているのかを明確にしなければならない良い例と言えると思います。
契約解除の場合は、契約に則ってそれまでの作業に対する対価の支払いが発生します。契約解除の場合に備え、発注者による著作権の買い取りについても金額と共に明記するとよいでしょう。契約解除の際、発注者は別の建築家と契約を交わし、これまでの業務の引継ぎを行いますが、著作権者の合意なしでの制作物の改変、改造を防ぐために、著作権の権利の買い取り、放棄の条件についても明記することが望ましいです。
CPDS海外連携作業部会「建築設計における海外デザイン事務所との付き合い方」ガイドライン
https://cpds-c.jp/archives/committee/overseas_cooperation