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連載 第5回『現代の建築プロジェクト・マネジメント』を概観する

前回に引き続き、書籍『現代の建築プロジェクト・マネジメント-複雑化する課題を読み解く-』の要点や背景にある著者の意図などを紹介させて頂きます。今回は建設プロジェクトのリスクをテーマにした、第4章の概要を紹介します。(小菅 健)

●責任と裁量
民法において、請負人の契約不適合責任は、無過失責任(ゼネコンがその行為について故意・過失がなくても、損害賠償の責任を負う)が前提となっています。もちろん実際の工事請負では、個々の契約の中で災害時や大幅な物価上昇などの不可抗力があった場合の損害負担を取り決めているものの、それら以外の事象については、請負人であるゼネコンが負担する部分が多くなります。逆に、その高い責任を背負うゼネコンは、専門工事会社の選定や調達の裁量を持ってプロジェクトをコントロールします。

通常の総価契約(ランプ・サム)の場合、ゼネコンがその裁量の中で得た利益は、発注者には還元されません。このような総価契約の特性は、発注者にとって「ゼネコンに任せておけば大丈夫」という安心感と同時に、「過大な利益を得ているのではないか」という不信感に繋がることがあります。ゼネコンにとっても、仮に裁量の範囲を超えた責任を負うことになるようであれば、大きな損失を抱える可能性があります。つまり、本来は切り離せない責任と裁量のバランスが、不透明で曖昧さを残した契約により、発注者と請負者の共通理解となり得ていないことが、現在の請負契約の課題の1つと考えられます。

● 契約におけるリスク配分
公共工事では、工程表とともに請負代金内訳書を発注者に提出し承認を受ける必要がありますが、それらは発注者および受注者を拘束するものではないと国土交通省のガイドラインに記載されています。また、民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会も、総価契約を前提とした約款では単価を示した請負代金内訳書は意味を持たない、と講習会の中で明言しています。つまり、設計図書に変更がない限り、内訳書の変更自体は契約変更に当たらないと解釈できます。言い換えれば、曖昧さやゆらぎを残した設計図書で工事請負契約を締結する場合は、ゼネコンは契約変更に当たらない設計変更が生じるリスクへの対処もある程度想定し、請負金額を検討しなければならないことになります。

ただ一方で、日本の設計図書は、図面と特記仕様書の関係を受注者が読み解き、特記仕様書から標準仕様書にさかのぼり、標準仕様の各章や各種の規格との参照しながら解釈する際にゆらぎが生じやすいこと、また「同等品」のような曖昧さを残す仕様設定も多いことなどから、契約上の義務をコミットするのが難しいという問題も孕んでいます。

次回は、第5章を紹介します。(つづく)

 *書籍の紹介ページはこちら(CPDSウェブサイト)
  https://cpds-c.jp/archives/news/news43

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