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連載 第4回『現代の建築プロジェクト・マネジメント』を概観する

前回に引き続き、書籍『現代の建築プロジェクト・マネジメント-複雑化する課題を読み解く-』の要点や背景にある著者の意図などを紹介させて頂きます。今回は建設プロジェクトのコストマネジメントをテーマにした、第3章の概要を紹介します。(小菅 健)

● プロジェクトの成否を左右する事業予算の計画
建設プロジェクトの計画は、事業構想、基本計画、基本設計、実施設計の順に進んでいきますが、建設費算出の目的や手法は各段階で異なります。

事業構想の段階では、目標予算の作成と評価が主な目的になります。財務的な視点では、投資期間法(PBP)、投下資本利益率法(ROI)、正味現在価値法(NPV)、内部利益率法(IRR)などの手法を用いて投資対効果を評価しながら、目標予算を作成します。また近年では、建設費用に運用費用、保全費用、解体処分費用を加えたライフサイクルコスト(LCC)での評価や、さらに地域経済と関連した外部性、賃料などの収入、非建設費用も加えたホールライフ・コスティング(WLC)での評価の機運も高まっています。

● 基本設計段階での工事費概算とコストマネジメント
全体工事費の80%は、設計が20%進んだ段階で確定すると言われている通り、工事費の変動要因は基本設計の段階でほぼ確定します。このため目標予算と設計仕様をすり合わせていく基本設計段階でのコストマネジメントは、プロジェクト全体の中でも最も重要なマネジメント項目の1つと言えます。この段階の概算手法には、①平米・坪単価算出法、②工種・大項目別算出法、③小項目別算出法があります。但し、①平米・坪単価算出法は概算による金額が目標予算を超えた場合の調整方法が見通せないため、設計の初期段階においても、粗密度の判断はあるものの、項目と数量を一定範囲で積み上げる概算手法が望ましいとされています。③小項目別算出法を用いて部位別・部分別に概算工事費を算出できれば、設計の初期段階から実施設計完了まで工事費の継続的な確認が可能になります。

また概算工事費を目標予算や条件に合うように設定することをコストプランニングと呼び、コストマネジメントとはそのコストプランニングに対するモニタリングやレビューを行うこと、と捉えることができます。その際、コストプランニングの内容が大雑把であるとコストマネジメントの意義が薄れてしまうこと、また歩掛りや複合単価のコストデータベースがプランニングやマネジメントに有用であることから、この段階では第三者のCMRやコストの専門家の知見を有効に活用すべきと考えられます。

● 実施設計段階での積算
実施設計段階における積算には、発注者(または設計者)による積算と、ゼネコンによる積算があります。前者は主に入札などにおける予定価格を把握・設定するための積算ですが、一般的な工法を想定して数量を計算し、刊行物などを参考に標準的な単価を掛け合わせて算出する場合が多く、特に仮設計画図がない場合は、過去の実績などに基づいた料率を工事費に乗じて仮設費を推測する手法も多く取られます。一方後者のゼネコンによる積算は、自分達が工事を行うための積算であり、実際に採用する工法や仮設計画を反映し、また必要に応じて専門工事会社の見積を取りながら費用を算出します。

当然採用する工法や施工計画、技能労働者の工数などが積算する者の考え方で異なるとともに、材料の市況や専門工事会社の繁閑などの単価に影響する情報の精度・鮮度も異なるため、両者の積算金額には乖離が生じることがあります。特に物価上昇や2024年問題(建設業の時間外労働上限規制の適用)の渦中にある現在はこの乖離が顕著となっており、契約方式や支払い方式の検討、またリスク対策や予備的経費の設定も含めた、包括的なプロジェクト・マネジメントがより重要になってきています。

次回は、第4章を紹介します。(つづく)

* 書籍の紹介ページはこちら(CPDSウェブサイト)

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