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連載 第3回『現代の建築プロジェクト・マネジメント』を概観する

前回の第2回に引き続き、書籍『現代の建築プロジェクト・マネジメント-複雑化する課題を読み解く-』の要点や背景にある著者の意図などを紹介させて頂きます。今回は現在の発注契約方式の多様化と発注者の役割・責務をテーマにした、第2章の概要を紹介します。(小菅 健)

国土交通省による多様な入札契約方式の推進
契約自由の原則に則りかねてから多様な発注契約方式が取り得た民間工事と異なり、税金を財源とする公共工事は、契約相手の選定における公平性・公正性の確保が必須です。このため、一般的に、厳正な判断基準によって選定された設計者が作成した設計図書で予定価格を設定し、競争的な入札で施工者を選択する方式が取られてきました。一方で、38%の市区町村では建築技師がいない、67%は5人以下(2020年4月1日時点)という状況下で、適正な価格と品質で迅速な発注を行うことは簡単ではなく、国土交通省はゼネコンを何らかの形で設計段階から参画させる方式や、民間の発注者支援者の活用を、地方公共団体に対して推進しています。

2014年の「公共工事の品質確保の促進に関する法律」改正、2015年の「発注関係事務の運用に関する指針」策定の中で、自らの発注体制や地域の実情に応じた多様な入札契約方式の選択・活用に関する指針がまとめられました。この中で、工事調達の入札契約方式は①契約方式、②競争参加者の設定方法、③落札者の選定方法、④支払い方式に分類されており、これらを組み合わせて最適な方式を選択・構築することを求めています。

例えば、①の契約方式では、典型的なパターンとして「設計・施工分離方式」「設計・施工一括発注方式」「詳細設計付工事発注方式」「ECI方式」等が挙げられています。これらの方式の違いは、“ゼネコンがどの段階からどのようなかかわり方をするか”の違いと見ることができます。言い換えれば、設計上の何らかの問題が生じた時に、その対処を引き受ける責務が発注者とゼネコンのどちらに多く配分されるかの違いですが、当然ながら責務と権限は表裏一体であるため、ゼネコンが負う責務が多いほどその裁量も大きくなるという関係にあり、どこでバランスを取るかは発注者自身が決定しないといけません。

発注者の役割とPM/CM
また、どのような入札契約方式を採用しようと、原則的に「事業構想」と「基本計画」のステージを取りまとめるのは発注者に課された役割です。一方で、現状課題の整理と空間・建築への翻訳、補助金活用を含めたファイナンス構想、施設資産のライフサイクルの支出と収入を合わせて評価するホールライフコスティング等を、建築プロジェクトの専門家でない人材が担うことは難しいのも現実です。特に、永らく設計・施工分離方式の一般競争入札を基本としてきた自治体においてデザインビルド等の設計図書の無い段階での受注者選定を行いたい場合に、内部の建築技師だけでこれらの前提条件を見定め、要求条件を発注図書にまとめ、高い精度の予定価格を算出し、総合評価の適切な評価項目を設定するのは、至難の業と言えるでしょう。

これらの多岐にわたる専門知識を提供しながら、事業構想・基本計画段階でのさまざまな支援と発注の仕組みづくりを担う役割が期待されているのが、PMやCM等の外部のコンサルタントです。つまり、昨今の入札契約方式の多様化と、PMやCMといった発注者支援者のニーズの高まりは、互いに関連性を持った動向だと考えることができます。

次回は、第3章を紹介します。(つづく)

* 書籍の紹介ページはこちら(CPDSウェブサイト)
https://cpds-c.jp/archives/news/news43

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