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◆連載第2回「建築設計における海外デザイン事務所との付き合い方」

よく欧米を中心とする諸国を「契約社会」と称しますが、対して日本はどんな社会なのでしょう?「日本は法治国家である」というフレーズも良く耳にしますが、私たちが法律だけに則って生活しているという実感はあまりありません。では義理人情や昔からの教訓などで世の中が回っている感じもせず、得体のしれない空気のようなものに支配されているというのが、実態に一番近いのかもしれません。

当然海外でも全てが合理的にルール通りに進んでいるわけではなく、グレーな部分や、ウェットな関係が司るビジネスシーンも多くあります。しかしだからこそ「契約」を尊重するビジネスカルチャーが浸透して、全くお付き合いや信用関係が無い当事者同士が契約という約束事に則ってビジネスというゲーム(試合)を繰り広げる慣習が根付いているのだと思います。

その中でもビジネスにおけるプロジェクトという「ゲーム」に参加するプレーヤーがだれで、各々どんな役割を持つのかは、試合開始の前に決めておかなければならない大事な要件となります。特に建築・建設業界内のプロジェクトでは、様々な専門資格者が参画しますので、各関係者の業務範囲、責任範囲、どのような立場でプロジェクトに参画しているのかを明確にしておく方が「問題が発生した時に責任の所在が明確になる」メリットがあります。当然プロジェクトに係る関係各社も自らの責任範囲を十分に理解しながら、自らの責任範疇以外の事には関わらないようにしますし、それが本来の姿と思われます。どんなに優秀な心臓外科医も手術中に麻酔専門医に代わって麻酔を患者に投与することはないでしょうし、どんな緊急事態でも免許のない看護師が医療行為に携われないのも同様です。海外では特にコンサルタントの領域で専門性の細分化が進んでおり、それぞれの専門性を持つコンサルタントがお互いにお互いの立場を尊重しながら協働作業を進めるのが慣例となっています。

翻って日本国内ではプロジェクトに参画する関係各社の業務範囲と責任範囲が非常に曖昧なケースが多く見受けられます。良い意味でも悪い意味でも各々の責任を明確にせず、何となくみんなで事を前に進めていくのが日本式と言っていいかもしれません。誰の手柄にもならないけど、誰も責任を糾弾されることはない。特に設計者と施工者の間の業務とその責任範囲に関しては限りなく溶け合いながら境が見えない関係になっている様に見受けられます。海外からのコンサルタント他プロジェクトへの参画者が契約というルールブックのもとに国内プロジェクトに参加する場合、出来るだけ分かりやすく役割分担を明確にするか、もしくは辛抱強く日本式の限りなくグレーなビジネスの関係性を理解してもらうべく、説明を尽くす必要があると思います。

一番残念なのは、日本側で希望する海外デザイナーの「立ち回り」と海外デザイナーが理解する自らの責任に理解の齟齬があり、最後には厄介払いの様にデザイナーが徐々に必要のない存在になる事かと思います。

『建築設計における海外デザイン事務所との付き合い方』
~業務契約締結に向けてのガイドライン~は、こちらをご覧ください。

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