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【新連載】ここが知りたい、初めての工場建設 1

私は建築業界の人間ではありません。 では なぜ、建築プロジェクト運営方式協議会(以下CPDS)の活動に参加したのかを説明します。

もう35年以上前の話です。 国内に新しい工場を建てる【新工場建設プロジェクト】は 戸惑いとつまずきの連続でした。

【すべてが白紙・・どこに聞けばいいの?】
なにしろ私は建築に関しては全くの素人だったので、誰に、何を相談していいのかわからない。 建築業者、設計業者等に相談すると、もしかしたら、その後の発注に影響するのでは・・ぐらいはわかる。なので、どこにも聞けない。
結局、この件は 当社役員が客先のH自動車に相談に行き、設計事務所を紹介され、そこを使うこととなった。(このことが後々問題になるのだが・・)

【これで出来るのかな?】
工場内に設置する生産設備の配置に関して、社内で調整と説得を繰り返し、やっと出来上がった設備配置図に基づき、自分たちだけで、建物の平面図を作成し、各部分の使い方を決めた。 しかし、これで建物が出来るのかどうかがわからない。 法令関係をクリアできるか、費用は予算をクリアできるか、そもそもこんなに柱が無くて建物が建つのか等々・・が全くわからない状態だった。

【言葉が通じない1】
まず、設計事務所の人と話をすると、専門用語が多すぎて話の内容がよくわからない。 どうも私に建築知識があるものと勘違いしていたようで、その旨説明すると やっと”人間の言葉“で 説明してくれた。
設計事務所側も同様で、我々の業界用語、企業用語が理解できなかったらしい。

【言葉が通じない2】
予算クリアや完成日程はマストで当然の感覚と思っていたが、どうもはっきりした返事が来ない。 お客さんのエンジンテスト日程に遅れたら、このビジネスは無くなり、この工場建設も必要なくなるという説明をして、建物の完成日程の確約を得たが心配の種が残った。
発注者の業界の状況を知っているのは発注者だけなので、受注者側では発注者の言っている言葉の意味や、重みが 発注者ほどには分からないのかもしれない。
・・・問題は言葉ではなく 言葉の持つ重みの理解・・

【工場建設を取り囲むステークホルダーが多すぎて・・】
工場入り口は交差点に近いから、ずらさないとダメとか、下流の田んぼに被害が出ないように 雨水排水にも巨大な油水分離装置をつけるとか、敷地の一部にお墓があって移転しているようだから 挨拶しておいた方がよいとか、電力会社と高圧線の引き込みの調整が必要だとか・・単なる挨拶にしても建物の仕様を理解した人がついてゆかなくてはいけない。
そのほか県庁、市役所、消防署、監督署等々への説明にも建物の絵が必要だが なかなかできてこない。

【誰も決めてくれない・・・】
私は決定権の無い平社員、上司は組織内の意見調整に手間取り、なかなか意思決定しない。
工場の仕様等に関して提案しても、1週間単位で日程が遅れていった。

この “誰が責任を持ち意思決定するのか” について決めておくことが、 もっとも大切だったことに、やっとこの時に気づいた。

【どこの建築業者に頼むの?】
設計事務所のアドバイスにより、数社を選び、入札を行った。 業者への連絡は一度に素早くしてください。と言われ、なぜと聞いたら、談合を防ぐためですといわれ、びっくり。
そういう業界なんだ・・という思いを強くした。

【また図面を書くの?】
設計事務所とやり取りしてやっと完成した分厚い図面の束にびっくりしていたら、ゼネコンが新たに大量の図面を書いてきて、設計事務所と相談していたので またびっくり。
ゼネコンが書いた図面は見せてもらえなかったが、設計事務所とゼネコンが “この部分はこういうようには出来ない” とか言い争っているような場面が何回かあった。
設計事務所の責任範囲はどうなってるの? 設計事務所、ゼネコン(施工業者)の立ち位置はどうなっているの? 疑問がどんどん湧いてきて、設計事務所に聞いたら、はい我々が全部責任を持ちますとのこと。 わかったような、わからないような・・・

こんなふうに【工場建設プロジェクト】は、まだ何もできていないのに、最初から てんやわんやでした。
建築業界の人から見れば、そんなことも知らないのか?という あきれるような発注者側のレベルの低さがあります。
発注者側から見れば 建築発注の方法やルールのわからなさがあります。

・・・でも新工場は作らなくてはなりません。

私がCPDSの活動に参加したのは こうした経験が失敗事例として役に立つのではないか、 あるいは同様の苦労をされている方に向けた解決策が見つかるのではないかとの思いがあったからです。

すったもんだの連続でしたが、何とか新工場は完成し、私は 次のアメリカ工場の建設プロジェクトを任されることになります。(つづく)

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