【業務仕様書と支払いについて】
今回は契約書のテクニカルな部分についてのお話になります。
日本国内で取り交わす業務契約書(もしくは業務見積書)の多くは、よく「ペラ1枚」などと表現されることもありますが、非常に端的な内容になっているケースが多くみられます。その理由をたどると、一度お請けした業務は多少の無理や困難があっても仕事を貫徹することが、受注側のスタンスとして発注者との信頼関係において当たり前だという商慣習のなごりから来るものと思われます。また建築・建設業界では、業界で共有されているスタンダードなひな型契約書があり、ほとんどの場合業務はひな型に記される定型の応用として理解されているのも、各々の契約が簡略で済む理由と思われます。
しかし、国内の「スタンダード」が通用しない海外のコンサルタントとの契約の場合、出来うる限り業務仕様書を明確に細部まで網羅する必要があります。細かい業務の内容、期間、成果品、業務を遂行するにあたり必要となる関係者の組織体制、業務のプロセスなど、「これは常識だから明記しなくても大丈夫だろう」「これは共通契約書に書かれているから改めて書く必要はない」などとは思わず、想定されるあらゆる場面に対応できるよう全て記載するぐらいの気持ちで仕様書を作りこむ必要があります。場合によっては、毎週の会議の回数と参加者、提出する図面の枚数と内容、図面修正の回数など作業として発生するものは全て契約時に一旦合意するケースもまれではありません。実際の業務の場面では、「何で定例会議にXXさんが参加していないんだ?彼は毎回定例会に参加する約束じゃなかったのか?」とか、「レポート提出後の、修正は1回の想定だった。こう何回も修正させられるなら、追加報酬を頂かないとリソースが続かない」などが問題になります。こんな場合、契約書に「定例会への参加はシニアマネージャー含む2名とする」とか、「成果品の修正は1回のみとする」と書かれていれば、問題が起きても解決するプロセスがだいぶ楽になります。例えて言うならば、「みかん一箱購入」と契約するのではなく、「大きさがXXグラム以上の無傷のみかんを24個入り箱入りで購入」の様に曖昧な部分を少しでも省くような契約にするということになります。
海外でも国内同様発注者の方が立場的に優位であり、様々な場面で受注者側が妥協したり契約外の業務を強いられるケースが多くみられます。しかしフェアーな契約を結ぶということは、結果的に発注者側もプロテクトする結果になる事が多くあります。グローバルな契約ベースの商慣習に慣れる意味でも、業務の曖昧さをなくす意味でも、欧米式の契約書式に慣れる意義はあると思います。
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