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芝浦工大大学院での講義『建築生産マネジメント特論』3日目を開催しました

今年で3年目となる芝浦工業大学大学院での講義『建築生産マネジメント特論』3日目を開催しました。この講義は、2022年7月に出版した書籍『現代の建築プロジェクト・マネジメント』をテキストに、執筆を担当した建設業界各分野の実務者がリレー形式で講義を行うものです。CPDS普及啓発委員長であり本書の主著者である志手一哉芝浦工大建築学部教授の授業内で開催しています。

第5講は「発注者の役割と入札契約方式の多様化」と題して、インフロニア・ホールディングスの綿鍋宏和氏にお話を聞かせて頂きました。綿鍋さんはCPDSの事務局運営をサポートして初期の普及啓発委員会には議論の中心メンバーとして加わって頂いた方です。現在は年に1度の講義のたびに再会することになっています。

綿鍋宏和氏

まずは建設の発注者には建物の建設や所有に関わる責務やリスクが発生することを確認。国内の建設業者は約48万社あり、そのうち公共工事の元請となれるのは13万社、公共工事の市場規模は約21兆円でそのうち建築工事は約6兆円といった数字が示されました。

続いて入札契約方式の多様化について。2014年の品確法改正で初めて法制化されてから今年で10年になります。それまでの公共工事は原則として設計施工分離方式でしたが、設計施工一括方式やECI方式など様々な入札契約方式が取り入れられるようになります。発注者にはプロジェクトの特性にあわせて最適な方式を選択することが求められます。

品確法の改正は建設産業全体の構造改革をめざしたものであり、①担い手確保、②生産性向上、③地域における対応強化が主な目的です。建設業全体における処遇改善も大幅に進んできており、官民一体となった建設業の魅力向上に様々な打ち手を打ち続けてきています。

最後に公共工事における発注者の役割について。発注者が抱える大きな課題の1つに、地方自治体の建築技師が5人以下の市町村が7割、ひとりもいない市町村が4割(1,721自治体のうち662)を占めていることが挙げられます。国が進める「発注者支援CM」の役割がますます重要となってきます。

講義の最後に「ヒトもカネも不足している中で『国民の福祉の向上及び国民経済の健全な発展に寄与』する公共建築のありかたを、皆さんはどう解決すべきと考えますか?」という問いが投げ掛けられました。学生たちの回答が楽しみです。

小菅 健 氏

第6講「透明性確保と発注者支援型CM」は竹中工務店の小菅健氏。CM部門に所属し、CPDSでは普及啓発委員会の運営を中心となって担って頂いています。志手先生と共に書籍『現代の建築プロジェクト・マネジメント』の主著者でもあります。

講義のはじめは「建築プロジェクトにおける“透明性”とは何か」。パソコンの購入を例に挙げ、比較(プロセスの透明化)と積み上げ(コストの透明化)の違いを明らかにします。一品生産である建築プロジェクトはそれほど単純ではないので、発注者支援型CMの役割が重要となってきます。

続いてプロセスの透明性確保の手法である「選定方式」。設計者、施工者の選定方式について解説します。総合評価落札方式について、ゼネコンの手間が大きい一方で、発注者にも提案を評価する技術力が求められると指摘。プロジェクトの特性に合わせた適切な選定方式を選択し、正しい手順を踏むことは、発注者の責務であると強調しました。

一方、コストの透明性確保の手法である「実費精算契約」については、一般管理費と利益を分けて契約したケースなど様々なパターンがあることを紹介。昨今の急激な物価変動を受けて、総価請負でなく実費精算契約を選ぶケースが増えてくるものと予想されます。持続可能な建設業のためには、発注者・受注者共に意識改革が必要と思われます。

最後に「発注者支援者としてのPM/CM」について。PMとCMの違い、日本と米国の建築生産の主な違いなど、実務に裏付けられた興味深いお話でした。発注契約方式は「選択」するものではなく「構築」するものというまとめは、建築発注者にとっても示唆に富んだ重要な指摘だと考えます。

『建築生産マネジメント特論』第4日目は10月21日に開催されます。第7講は日本郵政主席建築家・CPDS理事の黒木正郎氏による「各主体者の課題認識」、第8講・締めの講義は志手一哉教授による「持続的な発展に向けて」を予定しています。受講する皆さん、ご期待ください。

 

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