12月15日(木)夜、オンライン国際シンポジウム「ムハマド・ユヌス氏と創る3つのゼロの世界」を開催しました。バングラデシュのダッカよりノーベル平和賞受賞者・グラミン銀行創設者のムハマド・ユヌス氏にご講演頂き、後半は3名のパネリストの方にディスカッションして頂きました。1,400名を超える方にお申込頂き、当日は800名近くの方にご視聴頂きました。
ユヌス氏の基調講演のテーマは「3つのゼロの世界を創る」。近著のタイトルから、貧困ゼロ・失業ゼロ・CO2排出ゼロの世界をめざそうとの提言がなされました。ユヌス氏のソーシャルビジネスの原点であるグラミン銀行創設のエピソード、世界に広がるその活動についてお話し頂きました。世界中でグラミングループが貸し付ける融資額は総額30億ドルを超えるとのことです。貧困層、特に女性に対し無担保・低利子で融資をするユヌス氏の根底には「人間に対する信頼」を感じました。また、世の中には職を探す人と創る人がいるとし、すべての人に創造力があるのだから、後者=起業家となれる機会を増やすべきだと提言しました。
パネルディスカッションに入る前に、3名のパネリストからユヌス氏にコメント。斎藤幸平氏は4つ目のゼロとして先進国の成長ゼロすなわち「脱成長」を提言。末吉里花氏は、日本で増えている相対的貧困にどう向き合えばよいのかと質問。ユヌス氏は悪いのは貧困ではなくシステム、誰も拒絶されない金融システムが必要と答えました。中島岳志氏はユヌス氏の人間観のルーツについて尋ね、「それは自分の経験からくるものだ」との回答がありました。
パネルディスカッションでは斎藤幸平の「コモン」、末吉里花氏の「エシカル」そして中島岳志氏の「利他」という3つのキーワードを軸に3名のパネリストにお話し頂きました。
斎藤氏は、現場にこそ問題解決のヒントが眠っている。「システムを変えなければいけない」という点でユヌス氏と一致している。第三世界の貧困や環境破壊に対して我々先進国に暮らす人々も責任がある。持続可能な社会に転換するためにはマインドチェンジ・システムチェンジが必要。難しいが可能性はあるし希望を持ちたいといったご発言がありました。
末吉氏はご自身が代表を務めるエシカル協会の活動について紹介。システムを変えるために人々が一歩踏み出す後押しをしているとのこと。SDGsは目標であり、エシカルはそれを達成するための心の在り方、哲学。それによってはじめてサステナビリティが実現する。今後ますます教育が大切になると思う。子供たちと一緒に大人も学ぶ必要があるとのコメントを頂きました。
中島氏は、利他という観点からもユヌス氏の考えに共感する点が多いとのこと。人々の潜在的な能力=ケイパビリティを如何に引き出すか。これも利他的な行為だそうです。ユヌス氏がグラミン銀行を通じてシステムを変えることができたのは、バングラデシュの貧しい人たちがユヌス氏からお金を受け取ったのはなぜかと考えると、ユヌス氏の人間に対する根源的な信頼があったと思う。与えるだけでなく、受け取られることで初めて利他が発生すると指摘されました。
多くの視聴者からご質問を頂きましたが、一つだけ選び、3名のパネリストに「社会システムの再設計と同時に人間の価値観も変える必要があるのでは?」と問いました。皆さん同じように価値観転換の必要性を訴えられました。
最後にモデレーターの植村理事より、3つのゼロを実現するため、貧困に対しては富の配分、失業に対しては新しいビジネスの創造、そしてCO2排出に対しては環境への配慮と尊敬が大切であり、社会システムの変革が重要であると総括しました。
ご講演頂いたムハマド・ユヌス氏、ご登壇頂いた3名のパネリストの皆さんそしてお申込・ご参加頂いた皆様、誠にありがとうございました。